KISS - 愚直たれ

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先週末から、スティーブ・ペイス著、石川潤一訳の「プロジェクト・オブ・スカンクワークス」を読んでいる。本書への正しい接し方は「読む」より「眺める」であろうと思うのだが、文字があれば読んでしまうのが活字中毒者のあさはかさである。

読んでいると、「第一章 1940年代:明日の翼の創造」の章頭に、「単純に、そしてばかになれ」というケリー・ジョンソンの言葉が引いてあった。一瞬、なんのことか分からなかったのだが、これは "Keep it simple, stupid" = KISS ではないかとようやく気づく。まさか、と思って Amazon で原書(公開されていた)をみると、紛うことなき "Keep it simple, stupid" である。すなわち誤訳である。しかし、果たして航空機にも英語にも、なにより航空関連の伝説にも精通してるはずの訳者がそんな誤訳をするのだろうか。

どうやら、ケリー・ジョンソンは , (カンマ記号) 抜きの "Keep it simple stupid" と言っていたらしい。

…とここまで「作成日時」の火曜日に書いて放置してしまった。これでは石川潤一氏が誤訳をしたとも受け取れる記述で止まってしまっている。いうまでもなく、"Keep it simple stupid" であれば「物事をわざわざややこしくするんじゃねぇ、このオタンコナス」という訳文にはならない。

しかし石川潤一氏の「単純に、そしてばかになれ」は "Keep it simple and stupid" の訳文にはならないか。"Keep it stupid" の "stupid" を "simple" が修飾しているように思えるので、「単純なばかであれ」または「単純な愚かさを保て」ということではないか。

Wikipedia によると、"KISS: Keep it simple stupid" と共に語られるケリー・ジョンソンのエピソードに、ジョンソンが「平凡な整備員が戦時下に、一般的な工具だけを使って修理ができるようなジェット戦闘機を開発しろと課題を出した」というものがある。教育/時間/環境のどれも普通以下の状況で取り扱えるモノには、単純さだけではなくある種の「鈍さ」も伴っていなくてはならない。 日本語版 Wikipedia (2018年12月1日閲覧)では "stupid" に「愚鈍」という訳を当てて、「シンプルで愚鈍にする」としている。愚鈍を採用するならば、「単純な愚鈍さを保て」であろうか。

それにしても、「単純な愚鈍さを保て」では愚鈍の意図するところが図りにくい。そんなことを考えかんがえ、ついに辿り着いたのが「愚直たれ」なのだが、これはこれで少し意味がずれているような気がする。


作成: 2018-11-27 08:15:45.0更新: 2018-12-01 18:18:44.0
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