SFとスペオペの間

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今朝、昨日の記事をみてびっくり。「神話」ってなんだ?なかなかよく酔っ払っていたようだ。今回は幸いにも、どうして神話に至ったのか思考を再構築できたのだが、たまに謎のままなることもある。

竹宮恵子「地球へ...」

さて、ここからは竹宮恵子作「地球へ...」の内容に関する記述である。

本作に登場する伝統的な人類と、テレパシーやサイコキネシスなどの「超能力」を持つ「ミュウ」は、同じ人類集団内の差別集団と被差別集団である。まずはこの両集団の抗争劇としてストーリをまとめてみよう。

抗争劇としての「地球へ...」

差別集団内に生まれた被差別者は生存を許されず、抹殺されることになっているが、たまたま逃亡に成功したものたちが集団を形成し、新被差別者を保護するようになって集団を成長させた。やがて被差別集団は植民移住の失敗を経て差別集団との共存を要求し、両者は戦争に突入する。強力な戦力を調達した被差別集団は有利に戦局をすすめ、共存交渉に至るが、両集団の領袖による私闘が発生し、それに起因する大破局によって共存を目指した生存地さえ失う。

被差別集団の使用する「超能力」は差別の要因であり、防御・攻撃の武器として使われるが、ストーリーに必須のものではなく、他の差別要因や戦力におきかえることができる。したがってこの抗争劇を他の時代・場所に移植することは可能であり、本作品はたまたま未来宇宙を舞台としたスペースオペラ作品であり、感動を誘うのは作者のストーリーテーリングの秀逸さによるものである。

この抗争劇としての解釈では、差別集団の領袖の特異性をあえて無視している。差別集団、伝統的な人類のの領袖はコンピュータなのである。

コンピュータ依存社会への警鐘として「地球へ...」

「地球へ...」発表当時、パーソナルコンピュータなるものはなく、メインフレーム (とその眷属としてのミニコン) ぐらいしかなかった。ただし、政府・大企業の占有物ではなくなり、コンピュータの利用が広がりつつあったころだ。思い出すのは教育産業での利用と高度化が進んでいた時代だったことだ。模試の結果や判定が、当初はカタカナだけで表記されていたものがかな・漢字を混えたものに変わっていった。コンピュータそのものはちっとも身近ではなかったが、伝票などの印刷結果として、コンピュータの処理結果は身近になりつつあった。

したがって、「このままコンピュータが発達したらどうなるのか」という "Sense of Wonder" も身近になった時代である。「地球へ...」が「発達した結果、人類を管理するようになり、人類もそれに依存して生活する」という回答であるならば、これはスペースオペラなどではなく SF だ。ただし、オリジナルの回答であればだ。残念ながら、「地球へ...」はこの回答に基づいて作られた最初の作品ではない。したがって、「地球へ...」は「発達した結果、人類を管理するようになり、人類もそれに依存して生活する」という既出の回答に基づき、小道具または登場人物として「人類を管理するようになったコンピュータ」を配したスペースオペラなのである。また、作中のコンピュータを差別集団領袖としての登場人物と見なすと、やはり他時代・場所へ移植可能な抗争劇となる。

ところで、差別集団領袖はほぼ無謬にして全能の登場人物として描かれている。他の時代・場所では、このような登場人物はしばしば「神」として演じられる。

神話劇としての「地球へ...」

差別集団の領袖が神、ということになると、抗争劇は神話劇へと転じる。

神話の中で、古き神は黄昏れる。古き神が怒りの神と寛容の神の二重構造になっていようとも、だ。古き神の死によって大破局が訪れるのも神話として必然的な構成だろう。問題は、古き神亡きあと、新たな神があらわれるかどうかだ。その後の人類は神亡き時代を生きるのか。それとも新しい神が出現するのか。

大破局の中で、7柱の創造神が宇宙に散ったことは明示されている。しかし彼らは創造の後死すべきもののはずで、古き神の代替ではない。「地球へ...」のラストシーンは、暗喩で終わっている。実を言うと、この暗喩を解くことができない。そこに登場するのが大破局を生き残った人々の子孫なのか、7柱の創造神の被造物なのか。新しい神の帰還が描かれているのか、神なき時代の邂逅か。

解けない神話

「地球へ...」復刻版を読むまで、私はこの作品を「抗争劇」として捉えていた。そうなると (立ち読みした) 最終話は抗争の結末を示さぬまま大破局へと向かうことになり、落胆してしまうのも当然であろう。結局、「地球へ...」は「神殺し」の神話を宇宙・未来で展開したスペースオペラであり、ストーリーテーリングの見事さとラストシーンの暗喩の謎が私を魅きつけて離さないのだ。


作成: 2007-06-09 10:25:00.0更新: 2007-06-09 16:06:37.0
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